AI活用の成否を分けるのは、明確な「ルール」と「ガバナンス」です。デジタル庁が公表した指針『行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン(DS-920)』(デジタル庁)を軸に、企業が今すぐ取り組むべきルール整備の要点を、ITトレンドの視点を交えて詳しく解説します。
生成AIの利活用は、業務効率化や企画立案能力を飛躍的に高める可能性を秘めています。しかし、ハルシネーション(もっともらしい嘘)や情報漏洩のリスクを正しく管理できなければ、その便益を享受することはできません。本ガイドラインは、リスクを「ガードレール」で抑えつつ、イノベーションを加速させるための具体的な指針と言えます。
1. 【事実】組織体制の要:AI統括責任者(CAIO)の設置
ガイドラインでは、組織全体でAIを適切に管理するための「司令塔」として、AI統括責任者(CAIO:Chief AI Officer)の設置が明記されました。
• CAIOの役割: 生成AI利活用方針の策定、ガバナンス体制の構築、職員のリテラシー向上研修の実施、およびリスクケース発生時の対応を一元的に統括管理します。
• 高度な助言体制: デジタル庁が事務局を務める「先進的AI利活用アドバイザリーボード」が、高リスクな事案に対する助言やベストプラクティスの共有を行います。
2. 【事実】リスク判定の可視化:4つの軸によるリスク評価
すべてのAI利用を一律に制限するのではなく、**リスクの大きさに応じた対応(リスクベース・アプローチ)**をとることが求められています。
• 4つのリスク判定軸: 「A.利用者の範囲(外部提供か内部利用か)」「B.業務の性格(過失が重大な影響を及ぼすか)」「C.データの機密性(個人情報の学習有無等)」「D.人間による判断(出力の無修正利用か)」の4軸で評価します。
• 高リスク判定時の対応: 高リスクに該当する可能性が高いと判断されたプロジェクトについては、アドバイザリーボードへの報告と適切なリスク軽減策の検討が必須となります。
3. 【事実】調達・契約時の安全性確保:2種類のチェックシート
外部サービスを導入する際、事業者の信頼性を客観的に評価するための具体的なツールが整理されています。
• 調達チェックシート(29項目): 事業者のAIガバナンス体制、データの取り扱い、有害情報の出力制御、説明可能性の確保など、29の要求事項について確認します。
• 契約チェックシート: プロンプト(入力データ)の二次利用禁止、アウトプットの権利帰属、リスク発生時の事業者による協力義務などを契約書に盛り込むことが推奨されています。
【ITトレンド分析】生成AI社内ルール整備の特徴と傾向
ITトレンド編集部が主要な動向を調査し、ガイドラインを民間企業がどう活用すべきかをまとめました。
• 「禁止」から「統制された活用」への移行: 多くの企業が「生成AI利用禁止」からスタートしましたが、本ガイドラインの「高リスク判定シート」を応用することで、「この業務なら安全」という明確な境界線を引く動きが強まっています。
• SaaS選定基準のデファクトスタンダード: デジタル庁の「調達チェックシート」は非常に網羅性が高いため、これをそのまま自社のサービス選定基準に転用し、合理的かつ迅速な導入を目指す企業が増えています。
• 「人間の介在(Human-in-the-loop)」の徹底: AIの出力をそのまま公開・利用せず、必ず人間が内容の正確性や著作権侵害の有無を確認することをルールの核に据えるのが、今やスタンダードな運用となっています。
まとめ:持続可能なAI活用のために
生成AIの活用は、もはや「やるかやらないか」ではなく、「いかに安全に使うか」のフェーズに入りました。本ガイドラインで示された利活用ルールひな形やチェックシートを参考にすることは、自社のガバナンスを短期間で公的水準まで引き上げる近道となります。
以下のチェックポイントを踏まえ、生成AIをうまく活用し、業務やサービスの効率化を図りましょう。
利活用ルール整備の3大チェックポイント:
1. AI統括責任者(CAIO)または相当する責任者を任命しているか?
2. 4つのリスク軸に基づき、自社の利用ケースを評価できているか?
3. 調達時・契約時に、データの二次利用禁止などの安全策を講じているか?

